無病息災・家内安全などを願う 百万遍

みやもんた

2019年07月28日 15:39

無病息災・家内安全などを願う 百万遍
松代東荒町 百万遍





 約60年前に遡ります。松代の民話を何作も執筆していらっしゃる青木貞元先生が、民話と出合ったのは、先生が教師として赴任した新潟県で純朴な子供たちと、神社やお寺・古い祠・道祖神のある村で、古くから伝わる村の民話を聞かせていただいたときだそうです。村の皆様から、この民話を方言まじりで聞かせて戴いたことが先生の心を大きく揺さぶり、民話の世界へと導かれたそうです。
 当時赴任先のお宅には風呂などは無く、村の皆様のお宅のお風呂をお借りし本当に家族のようなお付き合いをされたそうです。当時のことをお話になる先生のお顔は遠い昔を思い出し、全てを超越し、この上ない素晴らしい表情がとても印象的でした。

 その後、青木先生は民話の執筆活動を続けられ、松代に伝わる昔話を掘り起こして100作以上の民話にまとめて、「松代の民話」「続松代の民話」「続々松代の民話」を執筆されていらっしゃいます。

 そして、この民話の中から松代地区市制100周年記念事業の一つとして区長会の皆様が中心となって20ヶ所に立て看板を立てました。

 実は、私たちの地域にも民話があり、立て看板も設置して戴きました。  それは、青木貞元先生に書いて戴きました「百万遍」です。




       

青木貞元先生作 民話 百万遍講


 今から160年以上前の安政2年8月、一人のお坊様が日の暮れかかった蛭川のほとりを城下へと急いでおりました。東荒町に差し掛かったところ、暗闇の中に二人の村人が座り込んで荒神様の前で一心に祈り続けていました。
 お坊様が声をかけると、二人の村人はすがりつくように懇願しました。「おらたちの一人娘が はやり病になってしまって・・・・・荒神様にお願いしているが、どうにもならないのです。どうか、娘をお助けください。村は、生き地獄のようで、村中が大騒ぎなのです」と。
 お坊様は、周囲を見渡し「このあたりは妖気が漂い悪魔がうようよしている」「よーし、悪魔退治に取り組むか」「今夜、みんなで荒神様の広場に集まるのじゃ」と言うと、どこかへ行ってしまいました。村人たちは、「このお坊様は、きっと偉い方に違いない」等と口々に言って夕方になるのを待っていました。
 日も沈み、あたりに涼しい風が吹き始めた頃、お坊様はいつの間にかおいでになり、傍らに大きな風呂敷づつみを置いて、読経を唱えていました。間もなく広場に集まった村の人たちに「このあたりは悪魔でいっぱいです。皆さん全員で、百万遍の念仏を唱えて悪魔退散を願ってください」と、言って、風呂敷づつみから大きな大きな数珠を取り出し、「この数珠を囲んで輪になり『なんまいだんぼ、なんまいだんぼ』と唱えながら数珠を廻してください。結び目が自分のところへきたら、一心に悪魔退散のお願いをしなさい」と言いました。
 念仏は、夜を徹して必死で行われ、お坊様も村の人たちも悪魔との戦いに全精力を注ぎ百万遍念仏を唱えました。そして、東の空がほのかに明るくなってきた頃、お坊様は「もう大丈夫です。みなさん、家に帰ってみなさい。悪魔は逃げ去って、皆元気になりましたよ・・・・・早く家に帰ってあげなさい」と言って城下に向かってしまいました。
 村の人たちが、其々家に帰ってみると、昨日まで苦しんでいた子供や年寄りが布団から起き上がり、「何処行ってただ?  腹へった。飯おくれや」等と、昨日までの重苦しい雰囲気は何処へやら。 村は明るさに満ちた朝を迎えていました。
 村の人たちは急いで、荒神様の広場に行ってみると、お坊様の姿は何処にも見えず、素晴らしい朝の日の光の中にただ大きな数珠の入った風呂敷づつみと各家庭に配ることのできる「奉唱一百万遍之札」と蛭川のせせらぎだけがありました。
 東荒町の人たちは、二度と悪魔を近づけないようにと毎年8月17日の夜、百万遍の念仏を村あげておこなっているそうです。そのおかげで、このとき以来 伝染病や災害はおこらず、豊かで平和な里として栄え続けてきたと言われています。

 このお話は、以前、FM善光寺と松代有線放送で放送されました。更に青木先生のご好意により今年の先生の番組の中で、百万遍念仏のお話をしていただけるそうです。